暗い帰り道、携帯電話を覗き込んだ人とすれ違うことがある。
そういうとき、決まって携帯電話の放つ青い光を命のように思う。
何故? 何故だろう。よくわからない。
暗い暗い帰り道、もしかしたら世界に自分しかいないんじゃないかってくらい暗くて静かな小道。
人の姿はみえないけれど、誰かが携帯電話を通じて誰かと通じているとわかるかもしれない。
携帯電話のモニターが光るのは、今すれ違った誰かが、携帯電話を通じて誰かの命と繋がっているから。

例のJRの事件について、特に怒りなどの深い感慨はない。
ただ、鉄の檻に閉じ込められた人やそれを救助する人、彼らのみた携帯電話を思わずにいられない。ひっきりなしにメールを受信し、着信を報せる、命により青白い光を灯す携帯電話。ひしゃげ、割れ、命の輝きを、繋がりを見せることのない携帯電話。
その光景を思わずにはいられない。
家族友達恋人の希望不安恐怖も、見られることも聞かれることも、ない。

この言葉の羅列は絶対に届いていないだろうけど、携帯電話を通じていれば嬉しい。

これは、
携帯電話を通じて、僕の命を僅か持っていった、もう会えない僕の友達に。