電車に乗っているとき、松葉杖を2本持ってる女の子が居た。多分ハタチくらいだと思う。
 両足にギブスをしてるとかそういう目立つ姿じゃなかったんだけど、恰好は本当に今時の女の子って感じで、それが逆に目を引いて不躾にもぼーっと眺めてしまった。
 その間、目があったとか、そういうのは一切なかった。
 多分、立つのに時間がかかるからだと思うのだけど、駅に着く前から立ち上がろうとしていた。けど、電車の揺れに流されるように椅子に腰を落としてしまい、電車は駅に着いた。女の子は扉に目を向けていた。
 足がびっくりするくらい細いな、と思った。思った時には立って手を差し出していた。こういうのホントに駄目。力を入れるとか、必死に、とか耐えられない。胸の中がもにょもにょする。
 松葉杖とか車椅子とか、全部なくなればいいのにって思う。なんで段差とか山とか川とか坂とかあるんだろう。世界にずっと平らでこけても怪我しない地面が続いていたらいいのに。奥行きとか高さとか存在しない次元だったらいいのに。怪我してもそれを全く意識しないで済む世界ならいいのに。世界が無理なら俺の生活する範囲だけでもいいから、頑張らなくても、何もしなくても生きていけてほしい。
 なんで、俺はこんなとこにいるんだろうと思う。
 女の子はびっくりしたように俺の手を見て、それから、初めて目が合った。強い後悔が胸に湧いた。
 見ないで欲しいと思った。今しがた湧いた後悔を押しやって、それだけが心を埋めた。
 逸らした視線の先で腕が動いて、両手が躊躇いがちに、だけどしっかりと俺の肘の辺りを掴んだ。同じようにして腕を引いた。
 腕に掛かる重さが驚くほど軽いということはなかった。
 ヒールのような、接地面の少ないブーツが、細い足の女の子を余計に不安定に見せた。
 松葉杖を慣れた様子で使って女の子は電車を降りる。扉の前で振り返り、張り付けたように薄く笑い、ありがとう、と言った。
 視線をホームと電車の隙間に落とす。
 そんな言葉欲しくなかった。むしろ、俺に声を向けないでほしかった。俺を見ないでほしかった。早く行ってほしかった。バイバイ、とだけ返す。もう一生関わることはないだろう。
 締まり始めた扉に、今の状態とか人の繋がりとか、よくわからんけどそういうもの一切合切を断ち切ってくれと願わずにはいられなかった。



 明日二週間ぶりのフリーだというのに、ちっともテンションが上がりません。薬のんで寝ます。よく寝ます。おやすみ